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新宿簡易裁判所 昭和42年(ろ)269号 判決

主文

被告人を罰金三万円に処する。

右罰金を完納することができない場合は金五〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるベき事実)

被告人は、中国人で

第一、中国政府発行の旅券を所持するものであるが、その旅券に在留期間は、昭和四一年四月二四日までと記載を受けているのに、同日までに出国せず同年一一月九日まで東京都新宿区諏訪町一八六番地に居住し、もつて旅券に記載された在留期間を経過して、本邦に残留し

第二、外国人登録証明書の交付を受けているものであるが、その登録を受けた日から三年を経過する昭和四一年五月七日前三〇日以内に、その居住地東京都新宿区諏訪町一八六番地所轄の新宿区長に対し、登録原票の記載が事実に合つているかどうかの確認を申請しなければならないのに、これを怠り、昭和四一年一〇月二一日まで、その申請をしないで、右規定の期間をこえて、本邦に在留し

たものである。

(証拠の標目)(省略)

(法令の適用)

出入国管理令第七〇条第五号

外国人登録法第一一条第一項第一八条第一項第一号

罰金等臨時措置法第二条

刑法第四五条前段第四八条第二項

刑事訴訟法第一八一条第一項但書

(弁護人の判示第一事実についての無罪の主張に対する判断)

主張の要領

被告人は留学の目的で来日し昭和三八年四月二四日在留期間一年の許可を受けて入国しその後二回(昭和39・4・24、昭和40・4・20)にわたつて在留期間の更新を許可され、更に昭和四一年四月一六日期間更新の申請をしたところ、同年六月一三日付を以て不許可の旨の通知を受けた。

そして、同年一一月一〇日、入国審査官山口辰信によつて違反審査を受けた揚句出入国管理令(以下、単に令という)第二四条四項(ロ)の容疑者として収容されるに至つたが、直ちに仮放免の請求をした結果、即日仮放免となつた。

同年一二月二日再び入国審査官倉島研二の審査により前同様の認定の通知を受けたので、直ちに異議ありとして口頭審理の請求手続をし

同月一六日特別審理官古賀利男による口頭審理の結果右認定に誤りがない旨判定された。

そこで、これに対し異議を申立て、目下法務大臣の手許で審理中である。

被告人の本邦在留の経過は以上のとおりであるから公訴事実の期間についてはこれを(A)昭和四一年四月二四日から同年六月一三日までと(B)翌一四日から同年一一月九日までとに分けて考えるべきである。

まず(A)について見ると被告人が旅券記載の在留期間の満了前である昭和四二年四月一六日第三回目の期間更新許可の申請をしたのに対しこれを拒否する旨の通知は同年六月一三日付でなされたのである。法令にしたがう適法な申請をなしその許否を待つていたのであるから処罰されるべきでないことは刑法第三五条によつて明かである。

次に(B)について考えると、在留期間更新不許可の場合に令二四条四号(ロ)該当者として収容の手続をとられた際、右該当者はその認定に対して口頭審理の請求ができ、これに対する特別審査官の認定に不服なときは法務大臣に異議の申出が許され、同大臣が異議に理由がないと認める場合でも令第五〇条一項により特別の事情によつては、なお、一定期間在留を許可することができることになつていて実際には更新を許可されたと同様の結果を得られる。法務大臣に対する異議申立は特別審査官の判定後にはじめて許されるものであり、そして被告人には在留特別許可を受ける可能性がないわけではないのだから、外見上不法在留者であるがごとくでも、実質上違法性なく、刑法第三五条の法意からも処罰のいわれがない。

判断

(A)刑法第三五条に規定する「法令」による行為というのは職務行為とか懲戒行為とかが法律又は命令の規定を直接の根拠とするところの行為を指すものと考えられるから右主張は首肯できない。

(B)外国人は旅券の在留期間の末日には出国できるようにしておくべきもので右在留期間が満了しても、なお、在留すれば不法在留の罪にあたると解すべきであつて、法務大臣に対する異議申立中であるからといつて違法性を欠き、正当行為であるということはできないと考えられる。

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